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ローカライズの現状と求められる翻訳者


「CATツール活用のための翻訳テクニック」講座 開講に寄せて
 長瀬智愛 : TransLingo株式会社 代表取締役


  TransLingo株式会社は2010年に設立されたローカリゼーションを専門とする翻訳会社です。これまでに手がけたエンドクライアントは100社以上に及び、ローカリゼーションを熟知し、ローカリゼーションのプロセスを使ってさまざまな分野の翻訳案件に対応しています。

「ローカライズ(ローカリゼーション)」と聞いて、皆さんはどのように思われますか。ローカライズをよくご存じない翻訳者が持つ一般的な印象は次のようなものではないでしょうか。
 

     
  1. ローカライズとはIT関連の翻訳であり、ITの知識と特殊技能が必要な、その道の専門家のみが行うもので、専門知識がないと簡単に参入できる分野ではない
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  3. ローカライズにはTradosなどのCAT(Computer Assisted Translation; 翻訳支援)ツールが必要で、使い方も難しく、ソフトウェアの値段も安くはない割に、実際の仕事でどの程度の使用頻度があるかわからない
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  5. ローカライズで扱うコンテンツは無味乾燥のマニュアルやソフトウェアなので、翻訳してもおもしろくない
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  7. ローカリゼーションの業界やプロジェクトのフローは複雑すぎる
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  9. ローカライズで使用される概念(CATツール、TM(Translation Memory; 翻訳メモリ)、換算ワード数など)が独特で、何から始めて良いのか分からない

ローカライズには興味があるが、このような理由のために今までローカライズ案件を敬遠してきた方には、今春開講される「CATツールを活用するための翻訳のテクニック」講座が足がかりとなるかもしれません。

確かに、これまでのローカリゼーションが扱うコンテンツはマニュアルやソフトウェアなどのIT関連が中心でしたが、最近では、ローカライズ=IT翻訳ではなくなってきています。この講座の「はじめに」*でも説明されているとおり、現在ではホームページなどのWebサイト、社員のトレーニング資料、プレスリリース、パンフレット、プロモーション動画の字幕など、あらゆる業種の企業活動に関係する多岐にわたるコンテンツ、すなわち従来の産業翻訳が扱っていたコンテンツが、ローカリゼーションのプロセスを使って翻訳されています。
ここで、「ローカリゼーションスキルと専門分野のギャップ」という大きな問題が生じています。つまり、ローカリゼーションのプロセスを熟知しているIT系の翻訳者が、ITとはほとんど関係のないコンテンツを翻訳しなければならない状況が発生しているのです。IT系製品のマニュアルを得意としていた翻訳者が、ITとは関係のない製品のパンフレットや企業のコンプライアンス資料を翻訳しても、適切な翻訳を生み出せるわけではありません。
しかし、これらの翻訳案件では、クライアントからのリクエストによってローカリゼーションのプロセスが必須であるため、こうした分野の知識は持ってはいるが、ローカリゼーションのプロセスを知らない翻訳者は案件に対応できず、分野違いの翻訳者が対応せざるを得ないこともしばしばあります。このような状況では品質の高い翻訳も生まれず、業界では慢性的に「良い翻訳者」、つまり、専門知識とローカリゼーションの知識の両方を持った翻訳者が不足しています。

「CATツールを活用するための翻訳のテクニック」講座は、そうした業界の問題を解消すべく作られました。この講座では、ローカリゼーションのプロセスだけでなく、ローカリゼーション業界の概要からローカライズ翻訳の分野別翻訳手法、翻訳のテクニックなど、明日の翻訳に役立つ実践的な内容が網羅されています。

以下に、講座のコンテンツの一例をご紹介します。

これは、会社からユーザーに送付するメールの一部です。翻訳してみましょう。

Hi,

It sounds like you are concerned about specific content within the reported page.
However, based on the information you have provided, it’s unclear to us what specific content within the page you are trying to report and how you believe it infringes your legal rights.
That being said, we've determined that the page as a whole doesn't comply with the Terms and Conditions (for reasons unrelated to your intellectual property claim).
Therefore, we've unpublished the page.

Thanks,

次のように訳していませんか?

こんにちは。

ご報告いただいたページの特定のコンテンツに関して懸念をお持ちのように思われます。
ただし、いただいた情報から、報告対象のページのどのコンテンツに関して懸念をお持ちなのか、コンテンツがお客様の法的権利をどのように侵害しているかが明らかではありません。
それでも、ご報告いただいたページは、全体に利用規約に従っていないと判断されました(お客様の知的所有権の主張とは関連のない理由のため)。
そのため、このページを非公開にいたしました。

ありがとうございました。
素直に訳出されていますが、普通の日本人なら違和感のある日本語と感じるでしょう。これを翻訳した方も、このままではユーザーに送付できる日本語ではないと思いながら翻訳したにちがいありません。次が修正後の翻訳です(原文と訳文の対応のため、便宜上改行が付けられていますが、最終的には不要な改行も削除されます)。
平素は弊社サービスをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。

ページの特定のコンテンツに関してご報告いただいた情報では、
懸念されるページのコンテンツを特定できないか、コンテンツがお客様の法的権利を侵害している根拠が明らかではありませんでしたが、
お客様の知的所有権の主張とは関連のない理由によって、ご報告いただいたページ全体が弊社規約に違反しているものと判断し、
対象のページを非公開にいたしました。

何卒ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。
4つの英文を1つの訳文にまとめることによって、元の訳文の違和感がだいぶ薄らいでいます。また、挨拶文も日本の慣習に沿った内容になっています。
翻訳者に求められる品質は、単語を置き換えただけの翻訳ではなく、そのままユーザーに見せられる日本語のテクニカルライティングです。特にマーケティング資料など、日本語の流暢さを求められる翻訳では、英文を理解し、その内容を日本語で一から書き起こすとどういう文章になるかを考えながら訳出し、その後日本語だけ読んで日本語として違和感のないことを確認する、という作業が必要です。原文と訳文の適切な距離感(どの程度自由に翻訳すべきか)をつかむには経験が必要ですが、この講座に掲載されている豊富な例文を読めば、ある程度そうした感覚をつかむことができるでしょう。

これまでWordやテキストエディタを使って産業翻訳を行ってきた方も、自分の専門分野のコンテンツを、ローカリゼーションのプロセスを使って翻訳できるようになれば、仕事の幅が格段に広がります。全体像がつかめれば、ローカリゼーションは難しいものではありません。この講座によって、ローカリゼーションを知らない翻訳者の方がローカリゼーションを体系的に理解し、業界が求めるスキルを身に付け、活躍の場を広げていただければ大変嬉しく思います。この講座を受けた翻訳者さんといつか一緒にお仕事できる日が来ることを楽しみにしています。
The Professional Translator 2015年1月10日号 ― 通巻118号より

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