研究レポート


解析可能な日本文

MT研究会会員 
桑田 英明


「訳せる文と訳せない文」(MT研究会・研究レポート)では、編集機能(「訳語選択/登録」以外)を使わないことを前提にしています。しかし、日本語の編集ならば誰でもできるはずなので、日英訳では編集機能を使おうと思っています。だだし編集結果が正しく訳文に反映されていることを、英文を読んで確認しなければならないので、編集機能の使用は最低限にしたいと考えています。

「訳せる文と訳せない文」では、ルールの抽出を目的としていますが、日英訳ではそれはできないようです。1つのソフトに当てはまるルールが、他のソフトにも当てはまるとは限らないからです。英日よりも日英の方が、ソフト間の差異が明らかに大きいです。目的は注意点の抽出ということになりそうです。

文章は、すでに慣れているワシントンDCの観光案内を使います。原文はここにあります。
http://www.shugakusha.co.jp/eigo/doggy/us/index.htm#w

<第1回>


ワシントン記念塔についての記述部分です。2つのポイントがあります。「で」と「・・・して・・・する」です。

ワシントン記念塔は,初代大統領ジョージ・ワシントンを記念して造られた白い石造りの塔で,高さ約169m。

At a tower of the white mason whom Washington commemoration tower memorializes President George Washington, and was made, it is about 169m high. 
(PC-Transer2000)

●Atlas V7とPC-Transer2000は「・・・の塔で」を正しく訳せません。「学校で」「会社で」と同じ「場所+で」と解析し、at a tower と訳出します。この「で」を格助詞としてではなく、並列助詞として解析させる方法がありません。したがってAtlas V7とトランサーでは、andを意味する「で」は使えません。「で」によって接続せずに、最初から別々の文として書く必要があります。

「高さ約169m。」を切り離し、「で」を助動詞「だ」に置き換えると、Atlas V7はこの文を正しく解析します。

Washington Monument is a tower of the white stonework made in commemoration of founding president George Washington.(Atlas V7)


●この段階では、PC-Transer2000とThe翻訳 V5はまだ正しく解析できません。
「・・・して・・・する」を「目的」ではなく、andと解析するからです。確かに、2つの解釈が可能です。この曖昧さを排除するために「記念して造られた」を「記念するために造られた」に書きかえます。

ワシントン記念塔は,初代大統領ジョージ・ワシントンを記念するために造られた白い石造りの塔です。

Washington commemoration tower is a tower of the white mason who was built in order to commemorate President first generation George Washington. 
(PC-Transer2000)

間違いも含まれていますが、構造の解析としてはかなり良くなりました。

The翻訳は、「・・・を記念するために」を正しく訳せません。「するために」を更に具体的に「する目的で」と書きかえます。

The Washington commemoration tower is the stone-made white tower built in order to commemorate first President George Washington. (The翻訳 V5)




<第2回>


ワシントン記念塔の続きです。最上級表現がここでのポイントです。

石造建築物としては世界一の高さである。

It is the number one in the world height as a stone building thing.

日本文に最上級を意味する「最も・・・な」が含まれていないので、訳文も最上級表現になっていません。

「世界一です」を単独で使う場合は、下記の(1)(2)の例からもわかるように上手く訳せるようです。しかし、形容詞(世界一の)として使うと訳がおかしくなり始めます。

●●『世界一』を補語として使う場合以外は、いわゆる「最上級表現」を使う方が無難です。

(1)これが世界一です

−This is the number one in the world
−This is the best in the world.
−This is the world's No.1.


(2)半導体製造の分野では、この会社が世界一です。

−In a field of semiconductor production, this company is the number one in the world.

−This company is the best in the world in the field of the semiconductor manufacturing.

−In the field of the semiconductor manufacturing, this company is the world's No.1.


(3)これが石造建築物の中で、世界で最も高い塔であるに違いない

−This must be the tower which is the highest in the world in a stone building thing

−This must be the highest tower in the world in a stone building.

−This will surely be the highest tower in the world of the stone construction building.

(注)(1)(2)(3)全て上から、[PC-Transer2000] [Atlas V7] [The翻訳 V5]の順です。


<第3回>


ワシントン記念塔の続きです。次の2点が今回の文のポイントになります。

頂上の展望台へは,エレベーターで約70秒,階段は898段ある。

There are 898 steps of stairs to an observatory of top by an elevator for about 70 seconds.
(PC-Transer2000)

「約70秒」の後に動詞が省略されているために、この文はどの翻訳ソフトでも上手く訳せません。この部分を「約70秒かかる」に変更すると、Atlas V7とThe翻訳V5は、この文の解析に成功します。

下の(1)がAtlas V7とThe翻訳V5による訳です(ただし、前置詞を修正できません)。

(1)頂上の展望台へは,エレベーターで約70秒かかり,階段は898段ある。

−It takes about 70 seconds to the observatory in the top in the elevator, and there are 898 step stairs.
(Atlas V7)

−To the observatory of the top, it takes about 70 seconds in the elevator, and there are the 898 steps of stairs to it.
(The翻訳V5)

PC−Transer2000は(1)の文を正しく解析できません。「(約70秒)かかり=刈り= cut 」と誤訳します。しかし、「かかる」を「掛かる」に変換すると、take と訳します。更に「展望台へは」を「展望台までは」に変更すると、下の(2)のようにPC−Transer2000も上手く解析できました(しかも前置詞を修正できます)。

(2)頂上の展望台まではエレベーターで約70秒掛かり,階段は898段ある。

To an observatory at top, it takes about 70 seconds by an elevator, and there are 898 steps of stairs.
(PC-Transer2000)




<第4回>


ワシントン記念塔の続きです。「主語なし日本文への対応」が今回のポイントになります。

展望台からはワシントンを一望できるほか,隣接するバージニア州,メリーランド州の一部も見ることができる。

A whole view of Washington can be commanded from the observatory, and also from it, some of neighboring State of Virginia and State of
Maryland can see.
(The翻訳 V5)

Washington's scenery can see a part of Va. and the Maryland state neighboring besides being seen from the observatory.
(Atlas V7)

Scenery of Washington can see ほ found from an observatory or Virginia to be next to, one part of Maryland.
(PC−Transer2000)

この原文を正しく解析できない原因は2つあります。

(1)原文が主語なし日本文である
(2)文を分割せずに不必要な接続をしている

まず、(2)については、文を句点(。)で分割し、「そして」を補う方法が最も確実です。(1)については、以下、The翻訳 V5とAtlas V7を先に検討し、その後にPC−Transer2000による訳を検討します。。

展望台からはワシントンを一望できる。そして隣接するバージニア州,メリーランド州の一部を見ることもできる。

A whole view of Washington can be commanded from the observatory. And some of neighboring State of Virginia and State of Maryland can also be seen.
(The翻訳 V5)

Washington can be commanded from the observatory. And, a part of neighboring Va. and Maryland states can be seen.
(Atlas V7)

The翻訳 V5とAtlas V7では、句点と「そして」を補い、「一部も」を「一部を」に変更するだけでこの文は正しく解析されました。


PC−Transer2000では更に、「隣接する」を「ワシントンDCに隣接する」に変更し、「一部」を「一部分」に変更します。そうすると下記のように「能動態」で正しく解析されます。

展望台からはワシントンを一望できる。そしてワシントンに隣接するバージニア州とメリーランド州の一部分を見ることもできる。

You can command a whole view of Washington from an observatory. And you can see part of Virginia and Maryland which are next to Washington.
(Transer2000)

(注)[設定]−[翻訳]タブで「主語を補う」を選択しています。

以上のように「主語なし日本文」の処理には、翻訳ソフトの設定により「受動態」を使う方法と「主語を補う」方法の2つの選択肢があります。

次回は、もう1つの選択肢について考えてみたいと思います。


<第5回>


前回の例文の後半部分だけに更に変更を加えます。次の2点が今回の文のポイントになります。

「そして隣接するバージニア州,メリーランド州の一部を見ることもできる。」

And some of neighboring State of Virginia and State of Maryland can also be seen.
(The翻訳 V5)

この前回の例文に修正を加えます。

「見ることもできる」→「見ることも可能である」

The翻訳 V5以外では訳が変わらないので、読点(、)を加えます。

「見ることも、可能である」

そして隣接するバージニア州、メリーランド州の一部を見ることも、可能である。

And it is also possible to see some of neighboring State of Virginia and State of Maryland.
(The翻訳 V5)

And, it is also possible to see a part of neighboring Va. and Maryland states.
(Atlas V7)

And it is possible to see Virginia to be next to, one part of Maryland.
(PC−Transer2000)

PC−Transer2000は正しく解析できていません。前回と同じように、次のように変更します。

「隣接する」→「ワシントンDCに隣接する」
「一部」→「一部分」

そして、ワシントンDCに隣接するバージニア州とメリーランド州の一部分を見ることも、可能である。

And it is possible to see part of Virginia and Maryland which are next to Washington D. C.
(PC−Transer2000)

以上の方法によって「主語なし日本文」をごまかすことが可能です。しかし今のところ、単語と読点の位置との関係(パターン)を把握することができていません。

「できる」「べきである」「なければならない」等を、名詞(「可能だ」「必要だ」「義務だ」)に変更したり、読点の位置を変えたり、色々と試しながら各翻訳ソフトの特徴を把握するしかないようです。

(例)「〜であると考えられる」→「考えることは可能だ」

◆The翻訳 V5

AはBであると考えられる。    It is thought that A is B.

AはBである、と考えることは可能だ。It is possible to think that A is B.

AはBであると考えることは可能だ。 A can think that it is B.


◆Atlas V7

AはBであると考えられる。     It is thought that A is B.

AはBであると考えることが、可能だ。It is possible to think that A is B.

AはBであると考えることは可能だ。 It can be thought that A is B.


◆PC−Transer2000

AはBであると考えられる。     I think that A is B.

AはBであると考えることは、可能だ。It is possible to think that A is B.

AはBであると考えることは可能だ。 You can think that A is B.


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