参加者の声 「5セント玉に導かれて/アリシャ・ペイジ」 渡辺サーラさん

『5セント玉に導かれて』の翻訳ワークショップ(Trans Publishing Workshop) に
参加した 渡辺サーラさんをご紹介します。

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編集部:
はじめにプロフィールと最近の活動についてお聞かせください。

渡辺:
初めて手にした英語の本は、スヌーピーの漫画でした。小学一年のときでとても嬉しかったことを覚えています。中学生の頃はハリウッドスターにファンレターを書いたりと、欧米の文化が好きな子どもでした。語学学校に通いながら、念願のイギリス留学を経て、銀行の国際部門に約7年間勤務しました。その後、育児や家事に専念しましたが、3人の子供たちは大学、高校、中学へ進学し、そろそろ仕事か何か、自分のために始めたいと思うようになりました。そんな時、翻訳経験がなくても参加できるこのワークショップの存在を知り、介護があり時間的制約のある私にもできるのではないかと思い、参加してみました。

編集部:
幼い頃から多言語の文化に興味がおありで、英語が生活の一部だったのですね。一時は家庭のご事情で英語を使う機会から離れていらっしゃったようですが、弊社のオンラインワークショップで、今度は翻訳という形で英語に触れる機会を作っていただいたことは、うれしい限りです。そんな渡辺さんが、本格的に翻訳を学び、翻訳家を目指そうと思ったきっかけを教えてくださいますか?

渡辺:
留学していた時、肌の色や外見はもちろんのこと、育った環境も違うヨーロッパやアフリカ諸国の人たちと、一緒にジョン・レノンの『イマジン』という歌を歌って皆で平和を願ったことがあります。それは心が一つになったとても素晴らしい瞬間でした。でも、本当の意味で宗教も政治的背景も違う彼らの心が理解できたのだろうかと、時々思っていました。

他国の言語や人の考え方を真に理解するには、ネイティブの言語で説明できることが不可欠だと思います。他国の人たちも、必ずと言っていいほど自国の言語に置き換えてみて初めて納得しているようにみえました。異文化をちゃんと理解するためには、自分が幼い頃から使っている日本語で、日本人にわかるように説明できるかが大切だと思うのです。しっかり解り合いたいから、言語ととことん向き合いたい、そんな気持ちで翻訳をやりたいと思いました。小説の翻訳は、あれこれ日本語を当てはめる様がまるでパズルを解いているかのようで、もともとパズル好きだった私にはたまらなく楽しい作業でした。

 

編集部:
なるほど。異文化理解はネイティブの言語から、つまり日本語(または日本)を知る、ということですね。例えば英日翻訳の場合ですと「英語が出来ることはもちろんだが、日本語力のほうがより問われる」と、プロの先生方が仰っているのをよく耳にしますが、渡辺さんの言われることと同じだと思います。翻訳は単に言葉の「置き換え」ではなく、起点言語と目標言語の間の言語的、文化的な違いの“溝”を埋める仕事とも言えますから、“溝”を感じさせない言葉を選んで目標言語の読者に伝えなければなりません。そういう意味で目標言語の特徴を学んだり、豊富な語彙を持つということは、非常に大事になってきますね。

さて、渡辺さんにとって初の翻訳書になります『5セント玉に導かれて』を出版されたのは、どんな理由や思いがあったのでしょうか。

渡辺:
時代小説は結構好きですし、この小説は、残酷なシーンや、心底悪い性格が描写されていたりする不快な部分がなかったので、たとえ訳すことが難しい場面に出会っても、最後まであきらめずにやり遂げられると感じました。

また、この主人公の女性のように生涯一途に人を愛する姿勢に感動したので、日本語で読みたくなりました。ドラマや映画になったらいい作品になるだろう、などと想像し、とにかくこの小説が気に入ったので、是非この翻訳本の出版に携わりたいと思いました。

編集部:
「日本語で伝えてみたい」という強い気持ちを感じたわけですね! 気に入った本との出合いも、まさにご縁だと思いますよ。では、渡辺さんのインスピレーションを刺激した『5セント玉に導かれて』の内容を紹介していただき、翻訳された感想、楽しかったこと、苦労したことをお聞かせください。

渡辺:
まずは本の内容から説明します。第一次世界大戦後の世界恐慌の真っ只中、幼い少女は、ある少年から5セント玉をもらい、恋に落ちます。ふたりは様々な困難を乗り越え愛を育んでいきますが、第二次世界大戦の影響下で引き裂かれてしまいます。ですが、どんなに苦しいときでも5セント玉がふたりを勇気づけ、大切なことに気づかせてくれるんです。そして、まるで5セント玉に導かれるかのようにふたりは再会し、互いの一生をかけて愛し合う、というラブストーリーです。

 

続きを読む(Webマガジン「The Professional Translator」より)