6. 翻訳メモリの活用法

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6. 翻訳メモリの活用法

対訳文を蓄積した「翻訳メモリ」をうまく利用すると、翻訳作業の効率が驚くほど高まります。PC-Transerの訳文生成には「機械翻訳」に加えて、翻訳メモリを利用する方法があります。まず「完全一致文検索」を行い、マッチしなければ「文型一致文検索」、そして、事前に設定すれば「類似文検索」も行われ、いよいよ該当するデータがない場合に機械翻訳するという優れた多段階翻訳システムです。また、「翻訳メモリ」ペインの検索機能を使えば、対訳例文集として柔軟に活用できます。前回取り上げた迅速に対訳ファイルを作成する方法と組み合わせれば、強力なツールとなるのは間違いありません。

 


実際に翻訳メモリ・ツールを使用したことのある人なら、「完全一致文」のマッチがごく限られていることを痛感しているでしょう。マニュアルなどのような極端に短くてパターン化した文の多い文書でなければ、完全一致による自動置換はほとんど期待できません。

PC-Transerには翻訳メモリの検索モード設定で、「大、小文字を区別しない」「スペースや句点などの違いを無視する」といったオプションがあります。全く同じ文でも、ピリオドではなくセミコロンで終わっているというだけで「完全一致文」と認められなくなるようなことを防ぐためですが、それでも、自動的に置き換わるほどマッチ率の高い文はなかなかありません。

 
それでは翻訳メモリは役に立たないのでしょうか。

とんでもありません。「完全一致」による自動置換を過度に期待せずに、使い方を工夫すれば、これほど役に立つ機能はないでしょう。繰り返しの少ない、複雑な文書を翻訳するときこそ「機械翻訳+翻訳メモリ」機能を大いに活用すべきです。

●大きすぎる「参考資料」に対処する方法

具体例を挙げましょう。以前に、1000ワード足らずの翻訳をしたことがあります。短かったので気楽に引き受けてしまったのですが、メールで届いた参考資料のファイルを解凍してみたら、翻訳メモリをテキスト書き出した大きなファイルが出現しました。この翻訳メモリをテキスト・エディタなどで検索して参考にしてほしいいとのことでしたので、早速開いてみましたが、大きすぎて「検索」して訳文を確認するのはとても無理だと判断しました。

そこで、テキスト・エディタを使って、PC-Transerの対訳形式に整形して翻訳メモリにインポートしました。インポートが完了してみると約10万対訳もありました。試しにこの翻訳メモリを使って「翻訳」してみたところ、案の定「完全一致文」はひとつもありませんでした。それでも、翻訳メモリ専用ツールと違って、機械翻訳された訳文が出力されるところがPC-Transerの良いところです。

●役に立つ「キーワード検索」

訳語リストは提供されず、翻訳メモリを参考にするようにということだったので、先ずユーザー辞書の登録から始めました。

新規のユーザー辞書を作成し、目立つようにフォントの色を赤にしてみました。

翻訳エディターのツールバーにある「カレント文の選択」ボタン(下向き三角の形)をクリックすると、カーソルのあるセルの原文と訳文が「翻訳メモリ」ペインに取り込まれます。

 
ここで、「翻訳メモリ」ペインの原文ボックスにある英語の語句を選択して「キーワード検索」ボタンをクリックすると、その語句が含まれる対訳が検索されます。検索結果を眺めながら、できるだけ大きく取ったフレーズ(名詞句が中心)をユーザー辞書に登録します。

 
翻訳する文とよく似ている文が検索されるので、訳語は迷わず自信を持って決定できます。
名詞句以外でも、動詞や形容詞、副詞など、その文書特有の訳し方を翻訳メモリで確認できるのは大変助かります。これを辞書に登録することにより、翻訳メモリの内容を忠実に訳文に反映することができるのです。

この作業を丁寧に行えば、訳文の8割〜9割は赤文字になります。ここまでくれば、ほとんど翻訳が完了したのも同然です。

最後まで行ったら最初の文に戻って、赤文字で確定した部分を生かして訳文を整えます。その際に、翻訳メモリを参照すると文体が揃います。訳文が完成する度に翻訳メモリに登録すれば、その対訳も次の検索対象となります。この場合、インポートした翻訳メモリには書き込まず、新規に翻訳メモリを作って登録します。

●フレーズ単位の訳文を組み立てる

よく、完全マッチがなくてもマッチ率を下げて検索し、検索結果の異なった部分だけを修正すれば良いと説明されていることがありますが、これは翻訳メモリ専用ツールの話です。異なる部分を修正するのは結構手間がかかります。また、同じような修正を何度も行わなければならないこともあります。

それに対して、強力なユーザー辞書機能を持つPC-Transerの場合は、ユーザー辞書にフレーズを登録して行くことができます。フレーズ単位で8割程度の訳文を確定しておけば、翻訳メモリを参考にして訳文を仕上げるのは簡単なことです。このような作業手順なら訳文を整える際に自由に語順を検討することができ、より自然な訳文にすることとも可能になります。

今回の例では、翻訳メモリのインポートやユーザー辞書登録などの作業に時間がかかり、全体として「時間の短縮」はできませんでした。それでも、膨大な参考資料に訳文を合わせる作業がそれほど苦労せずにでき、チェックも十分行うことができました。このように翻訳ソフトは、スピードアップだけではなく、作業の軽減、品質の向上にも大変有効なツールであることを強調したいと思います。


記事の内容は筆者自身のノウハウに基づいております。記事の内容によって万一損害を被ることがあっても一切責任を負いません。また、この記事の内容に関して発売元の株式会社クロスランゲージへの問い合わせはご遠慮ください。(小室誠一)

最終更新時間:2007年11月30日 10時14分11秒