9. 「中間編集」実践篇

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9. 「中間編集」実践篇

前回は中間編集の基本について説明しました。どのような機能が中間編集に利用できるか一通り見てみましたが、実はこれらの機能は翻訳スタジオのカタログやマニュアルでは「後編集機能」に区分されています。この記事では、人間が直接訳文を修正することを「後編集」と呼んでいますので、混乱されることのないようにお願いします。

フレーズ指定や訳語変更など、個々の機能は便利だと思っていても、いざ実際に使おうとすると、どのようにすれば効果的なのかわからず、面倒なのでそのまま訳文を修正してしまうことが多いのではないでしょうか。これでは難行苦行になる可能性があります。

直接修正したい気持ちをぐっとこらえて、ぎりぎりまで中間編集すれば、その後の作業は訳文だけを見て編集するだけで済みます。後編集では思い切って訳文を修正し、最終的に原文と突合せチェックをして原文の意味から逸脱していないかを調べます。このようにすることで、翻訳ソフトの直訳調を超越して、自然な訳文を作ることができます。

●文分割が基本

中間編集のテクニックは、前回説明したようにいろいろとありますが、納期に追われていると細かい編集はなかなかできないかもしれません。そのような場合は、少なくともフレーズ指定と文分割だけでも試して見てください。

フレーズの部分を範囲指定してから「フレーズ指定」ボタンをクリックすると黄色くマーキングされます。その文を翻訳すると訳文の該当部分も黄色くマーキングされるので、フレーズの対応関係が一目でわかります。文中の重要なフレーズを指定しておけば、フレーズ部分の訳文が正しくなるだけでなく、訳文修正のときに語順を検討するのに大変役に立ちます。

現在の翻訳ソフトの訳文はかなり改善されていますが基本的に訳し上げます。じっくり見れば正しく訳されていても語順がまずいために非常に読みにくくなることが多いようです。そこで、スラッシュリーディングのように意味の塊で文分割してから翻訳すると、とりあえず前から訳すスタイルになります。どこで分割するかが問題ですが、これは自分で試行錯誤しないとなかなか身につきません。

大原則を挙げておきます。
(1) 主語と述語の分割はうまくいくことが多い
(2) 述語と目的語の分割は要注意

例を見てみましょう。

<分割なし>

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These language packs contain only the strings needed for the installation process.
これらの言語パックは、インストール・プロセスのために必要とされるストリングだけを含む。
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<主語と述語を分割>

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These language packs
これらの言語パック
--
contain only the strings needed for the installation process.
インストール・プロセスのために必要とされるストリングだけを含む。
--

実は、デフォルトの設定では「インストール・プロセスのために必要とされるストリングだけを含みなさい」と命令形で訳されてしまうので、あらかじめ翻訳設定で「命令文を平叙文として訳す」にチェックを入れてあります。これは文分割を活用する上で重要なポイントです。

<述語と目的語を分割>

--
These language packs contain
パックが含むこれらの言語
--
only the strings needed for the installation process.
インストール・プロセスのために必要とされるストリングだけ。
--

こうなると、泥沼にはまります。

●練習

次の文は、「英国航空の代者は、〜と言った」と、主節の主語と述語の訳が離れすぎています。一箇所分割して語順を変えてください。
(on は「に関して」→「に基づいて」に訳語変更しています)

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A spokeswoman for British Airways said in London that the airline had canceled the flights on advice from the UK government, for security reasons.
英国航空の代者は、ロンドンで、航空会社がセキュリティ理由のために英政府からアドバイスに基づいて飛行をキャンセルしたと言った。
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英文法に厳密に従えば、名詞節を導く接続詞「that」の前で分割することになりますが、以下のように不自然な訳になります。これは述語と目的語を分割してはいけないという原則を守っていないからです。

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A spokeswoman for British Airways said in London
ロンドンで言われる英国航空の代者
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that the airline had canceled the flights on advice from the UK government, for security reasons.
航空会社がセキュリティ理由のために英政府からアドバイスに基づいて飛行をキャンセルしたために。
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あえて「that」の後で分割することで、「that」を代名詞としてしまえばうまくいきます。文法的には正しくありませんが、結果的には問題ありません。誰にも怒られません。この分割位置はほとんど公式とも言えますので、覚えておきましょう。

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A spokeswoman for British Airways said in London that
英国航空の代者は、ロンドンでそれを言った
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the airline had canceled the flights on advice from the UK government, for security reasons.
セキュリティ理由のために航空会社は英政府からアドバイスに基づいて飛行をキャンセルした。
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このように、文分割は語順のコントロールには欠かせない機能です。最近では頭から訳しおろすのが普通になっていますが、中間編集で文分割を行って語順を整えておけば、後編集で大きく語順を入れ替えずに済みます。このテクニックをマスターするだけでもずいぶん翻訳効率が高まるでしょう。

なお、from the UK governmentが直前のadviceを修飾するようにするためには、advice from the UK governmentをフレーズ指定すると良いでしょう。「英政府からのアドバイス」と出力されます。


十分に辞書登録をした上で、文分割によって語順を整え、フレーズ指定で係り受けを調整すれば、下訳としての利用価値はずいぶん高まります。下訳作成ツールとしての翻訳ソフトが手放せなくなるはずです。みなさんも是非、中間編集をお試しください。


記事の内容は筆者自身のノウハウに基づいております。記事の内容によって万一損害を被ることがあっても一切責任を負いません。また、この記事の内容に関して発売元の株式会社クロスランゲージへの問い合わせはご遠慮ください。(小室誠一)

最終更新時間:2008年01月30日 17時36分04秒