■第10回 翻訳ソフト活用トレーニング法

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第10回 翻訳ソフト活用トレーニング法

 
最近では、翻訳メモリ(TM)と機械翻訳(MT)を連動させて翻訳生産の効率化を行うようになってきました。ただ、TMもMTもそれぞれ十分に使いこなし、円滑に連動できて初めて効果が表われます。また、翻訳メモリが十分に蓄積されていない場合は、どうしてもMTでの作業がメインになります。
 
トレーニングをせずに自己流で翻訳ソフトを使ってもうまくいきません。それにもかかわらず、翻訳ソフトの出力文を活用するためのトレーニング方法を説明したものがほとんどないのが現状です。
 
今回紹介するトレーニング方法は筆者が10年以上前に考えた方法で、今でも続けています。楽しくできますので、みなさんも気軽にやってみてください。
 

トレーニングのポイント

 
トレーニングのポイントは次の3つです。

(1)訳語
よく、訳語が一つでも不適切だと翻訳ソフトは使えないなどと言う人がいますが、特に、名詞句の訳語についてはたとえどんなに不適切な訳語が出力されても気にする必要はありません。というのもユーザー辞書に登録すればほぼ100パーセント解決するからです。
(2)語順
どんなに正しく訳されていても、語順が不適切であれば大問題です。
(3)修飾句(節)の係り受け
前置詞句の形容詞用法と副詞用法の間違いは頻繁にあります。並列句も要注意です。

 
さて、トレーニングに最適な題材としてお勧めするのが、Voice of AmericaのSpecial English Newsです。
 
<VOA Special English Home>
http://www.voanews.com/specialenglish/index.cfm
 
Special Englishによるニュース記事は語彙が1500語に限定されているために、翻訳ソフトで訳しても「訳語」に関してはそれほど気になりません。
 
<VOA Special English Word Book>
http://www.voanews.com/specialenglish/wordbook-a.cfm
 
語彙が限定されているといっても、英文自体に不自然さはありません。
 
このニュース記事を使えば、訳語をあまり気にせずに、語順、修飾語句の係り受けなどに集中してトレーニングできます。
 

トレーニングの実例

 
それでは実際にSpecial Englishによるニュース記事を使ってトレーニングしてみましょう。
 
NATO at 60: A War in Afghanistan, and a Purpose to Redefine
http://www.voanews.com/specialenglish/2009-04-03-voa2.cfm
 
この記事を訳しながら、注意点を解説して参りましょう。
 

【原文】NATO, the North Atlantic Treaty Organization, is sixty years old.
【訳文】NATO(北大西洋条約機構)は、60才である。

 
「60才」という訳語を見て、これだから翻訳ソフトは使えないという人がいます。これなどは「創設60周年」と置き換えるだけで解決できます。出力文の訳語に惑わされずに、頭の中で正しい訳語に置き換えて読むトレーニングをしましょう。最終的にはユーザー辞書に登録します。

【原文】On April fourth, nineteen forty-nine, twelve countries signed the 
        North Atlantic Treaty in Washington.
【訳文】第4には4月に、19は49、12カ国、ワシントンで北大西洋条約に調印した。

 
「第4には4月」→「4月4日」、「19は49」→「1949年」と置き換えて読みます。

【原文】They were allies from World War Two.
【訳文】彼らは、第2次世界大戦からの同盟国であった。

 
「彼ら」→「それらの国々」と置き換えて読みます。

【原文】They promised to protect each other from the growing threat they saw 
        from another former ally, the Soviet Union.
【訳文】彼らは、互いを彼らがもう一つの旧同盟国(ソビエト連邦)から見えたという
        発達する威嚇から保護すると約束した。

 
分かりにくい訳文です。このような修飾句が複数あるような文は思い切って分割してしまいましょう。

【原文1】They promised to protect each other
【訳文1】彼らは、互いを保護すると約束した
【原文2】from the growing threat they saw
【訳文2】彼らがわかった発達する脅威から
【原文3】from another former ally, the Soviet Union.
【訳文3】もう一つの旧同盟国から、ソビエト連邦。

 
3つに分割し、最初にSVを提示します。そして残った修飾句を2つ並べます。「彼ら」が何を指しているかは前の文と同じです。不適切な訳語は頭の中で正しい訳語に置き換えます。

【原文】Leaders from NATO countries have gathered for two days of meetings 
        through Saturday in Strasbourg, France, and Kehl, Germany.
【訳文】NATO加盟国からのリーダーは、ストラスブール、フランスそして、ケール
       (ドイツ)で土曜日を通して2日の会議のために集まった。

 
これも分割します。さらに「Strasbourg, France, and Kehl, Germany」をフレーズ指定します。

【原文1】Leaders from NATO countries have gathered
【訳文1】NATO加盟国からのリーダーは、集まった
【原文2】for two days of meetings through Saturday
【訳文2】土曜日を通しての2日の会議のために
【原文3】in Strasbourg, France, and Kehl, Germany.
【訳文3】ストラスブール、フランスそして、ケール(ドイツ)で。

 
「リーダーは、集まった」とすることで、ずっと分かりやすくなります。
 
次の文も分割しましょう。

【原文】The summit meetings also brought thousands of troops and 
    police for security and to control protests.
【訳文】首脳会談も、セキュリティそして、制御抗議のために、何千もの軍隊
    そして、警察を持ってきた。

 
2つに分割して訳します。

【原文1】The summit meetings also brought thousands of troops and  police.
【訳文1】首脳会談も、何千もの軍隊そして、警察を持ってきた。
【原文2】for security and to control protests.
【訳文2】セキュリティそして、制御抗議のために。

 
このように訳文の主語と述語をできるだけ近づける工夫をするわけです。
 
以下のような、「〜say+節」は分割するのが定石です。

【原文】NATO spokesman James Appathurai said the main subject at the sixtieth 
        anniversary meetings would be the NATO operations in Afghanistan.
【訳文】NATOスポークスマン・ジェームズAppathuraiは、60回目の記念日会議の主要
        な主題がアフガニスタンでのNATO事業であると言った。

 
sayにthat節が続く場合は、thatの後で分割します。thatを擬似的に代名詞にします。この文のように接続詞が無い場合は、ピリオドを打つと良いでしょう。

【原文1】NATO spokesman James Appathurai said.
【訳文1】NATOスポークスマン・ジェームズAppathuraiは言った。
【原文2】the main subject at the sixtieth anniversary meetings would  be 
         the NATO operations in Afghanistan.
【訳文2】60回目の記念日会議の主要な主題は、アフガニスタンでのNATO事業で
         ある。

 
最後にもう一つだけやってみましょう。

【原文】President Obama announced a new policy on Afghanistan and Pakistan 
        last week.
【訳文】オバマ大統領は、先週、アフガニスタンそして、パキスタンに関する新しい
        政策を発表した。

 
これでもいいのですが、何か不自然な感じがしませんか?
「先週」の位置が何となくしっくりしません。「last week」を文頭に移動してみましょう。

【原文】last week President Obama announced a new policy on Afghanistan and 
        Pakistan.
【訳文】先週、オバマ大統領は、アフガニスタンそして、パキスタンに関する新しい
        政策を発表した。

 
これだけで見違えるような訳文になったと思いませんか。
 

トレーニングの効果

 
どうですか? たったこれだけでもずいぶん翻訳ソフトの性格がつかめたでしょう。
 
このトレーニングをとにかく1ヵ月続けてみてください。たくさんやる必要はありません。実例で取り上げたくらいの分量で結構です。それほど時間をかけなくて結構です。30分程度で十分です。毎日続ければ10分でも効果があります。
 
できるだけ訳文を先に読まないようにする訓練
 
やさしい英文なので、出力された訳文を見なくても意味がとれるはずです。
このトレーニングで「英文をしっかり読んで意味を理解してから訳文を見る」習慣をつけてください。
 
先に訳文を斜め読みしなければ、翻訳ソフトを使って翻訳作業をしても、機械翻訳の出力文に影響されて誤訳したり不適切な訳をしたりすることは少なくなります。
 
また、英語と日本語の語順の違いや、修飾の仕方の違いがいやでもはっきりするので、曖昧性の少ない訳文をつくるコツが速く身につきます。
 
何と言っても、分割した訳文の破片をどのようにつなぎ合わせれば自然な日本語になるかを毎日考えることが良い訓練になります。
 
みなさんも、仕事の合間に気分転換のつもりでやってみませんか。
1ヵ月やったところで、次回はこのトレーニングの成果を生かした、実践的な訳文作成法を紹介することにします。 
 
【eTrans Technology】


記事の内容は筆者自身のノウハウに基づいております。記事の内容によって万一損害を被ることがあっても一切責任を負いません。また、この記事の内容に関して発売元の株式会社クロスランゲージへの問い合わせはご遠慮ください。(小室誠一) 

最終更新時間:2009年04月08日 18時15分13秒