■第11回 翻訳ソフト活用トレーニング法(実践篇)

トップ 検索 PDF RSS ログイン

オンライン講座
>>翻訳生産性向上のテクニック

第11回 翻訳ソフト活用トレーニング法(実践篇)

 
前回紹介したトレーニングでは、以下のようなスキルを身につけるのが目的でした。
 
(1)訳文を先に読まないで意味をつかむ
 
英文の意味を正確に把握するには、英語のまま読む必要があるのは言うまでもありません。出力された訳文を先に読むと意味を取り違えることがあるので、先ず英文を読んでしっかり内容を理解します。
 
(2)一次出力の訳語に惑わされない
 
翻訳ソフトの出力文は、辞書引きの結果をそのまま訳文にはめ込んでいるだけです。
基礎トレーニングでは、出力文の訳語に惑わされずに、頭の中で正しい訳語に置き換えて読む訓練をしましたが、実際にはこれらはすべてユーザー辞書に登録します。
 
(3)修飾語の係り受けに敏感になる
 
特に前置詞句の係り受けが誤解析されることが多いと実感されたことでしょう。名詞を修飾する場合は被修飾語も含めて辞書登録してしまうのが最も良い解決策です。また、少しでも係り受けが複雑だと感じたら、フレーズごとに分割することで、文の構造を分かりやすく整理できます。
 
(4)分割した訳文を上手につなぎ合わせる
 
分割してはつなぎ合わせるトレーニングをすることで、英語と日本語の構文の違いをはっきり認識でき、素早く対応できるようになります。
 
(5)語順に注意を集中する
 
訳文が不自然になる原因のほとんどは語順にあります。仕上げの段階では、訳文の語順を徹底的に検討することが大切です。
 

実践トレーニングのポイント

 
さて、約1カ月トレーニングを続けただけで、これらの5つのスキルをほぼマスターできました。そこで今度は、どのように訳文を作成していけば良いかを説明しましょう。
 
基礎トレーニングを続けていくうちに、だんだん訳文の完成形が頭に浮かぶようになったと思います。でも、すぐに訳文を修正してしまっては翻訳ソフトを十分に活用したことにはなりません。
 
先ず、頭の中で適切な訳語に置き換えた語句をユーザー辞書に登録する必要があります。このとき大切なのは「名詞句」を十分に登録することです。句でも節でも名詞の働きをするものはできるだけ登録します。辞書としての汎用性は気にしないで結構です。辞書に登録する行為が「翻訳」なのです。これが「辞書登録を通じて訳文を作成する」ということです。翻訳ソフトを翻訳支援ツールとして活用する場合の最重要ポイントです。
 
このように英文を読んで意味を理解して辞書登録をすることで、不適切な訳語と前置詞句を含む係り受けの誤りを解決できます。
 
残りは構文です。語順のコントロールは主に文分割を使って行います。前から訳し下ろすには文を分割するのが最も効果的です。すでにフレーズ内の語順は辞書登録によって解決されているので、単語ではなくフレーズ単位の語順ということになります。
 
最後に、分割したフレーズを適切につなぎ合わせて微調整します。訳文に直接手を入れるのはこの段階になります。
 

実践トレーニングの実例

 
今回は、Voice of Americaの通常のニュース記事を題材にして説明しますが、慣れてきたらご自分の専門分野の文書を使ってトレーニングしてください。
 
US Officials 'Cautiously Optimistic' About Swine Flu Spread
http://www.voanews.com/english/2009-05-04-voa59.cfm
 
PC-Transer 翻訳スタジオ2009 を使って、スタイルを「ニュース」にしています。
ユーザー辞書は新規作成して「書込辞書」に設定しフォントの色を「赤」にしました。学習辞書も新規作成しておきます。これで準備は整いました。
 

<例文その1>

 
【原文】
The countries hardest-hit by swine flu - Mexico and the United States - are reporting some encouraging signs after weeks of fear that grew more intense each day.
【訳文】
豚インフルエンザ ― メキシコとアメリカ合衆国 ― によって最もひどく打撃
を与えられる国は、毎日より激しくなった何週間にも及ぶ恐れの後、いくらかの励みになるサインを報告している。
 
今度のトレーニングでは積極的に辞書登録していきます。
例えば、以下のようなフレーズを名詞で登録します。
(訳語はあくまでも一例です。もっとよい訳語があると思いますが、あくまでもソフトの使い方の説明が中心ですので...)

  • country hardest-hit by swine flu(n,9,countries hardest-hit by swine flu):豚インフルエンザに大打撃を受けた国
  • some encouraging signs(n):いくらか明るい兆し
  • fear that grew more intense each day(n):毎日増大する恐れ

 
辞書を登録した後で、文の構造に注目します。ここでは主語の部分を分割してみましょう。動詞が現在進行形になっているので、主語を分割しても命令形で訳出される恐れはありません。

 
【原文】
The countries hardest-hit by swine flu - Mexico and the United States -
【訳文】
豚インフルエンザに大打撃を受けた国−メキシコとアメリカ合衆国−
 
【原文】
are reporting some encouraging signs after weeks of fear that grew more intense each day.
【訳文】
何週間にも及ぶ毎日増大する恐れの後いくらか明るい兆しを報告している。
 
主語の部分がすっきりしました。「は」を付けるだけでこのまま使えます。
後半の部分は少し書き換える必要がありますが、大枠はこれで良いでしょう。
 

<例文その2>

 
【原文】
Mexican officials say the number of people contracting the virus has leveled off, and that schools and other public places will reopen next week.
【訳文】メキシコの当局はウイルスを契約している人々の数が横ばいになったと言う、そして、その学校と他の公的な場所は来週再開する。
 
最初に辞書の登録をします。前置詞も含めて名詞句として登録することで簡潔な訳文にすることができます。

  • number of people contracting the virus(n):ウイルス感染者数
  • public place(n,*):公共の場所

 
次に構文です。「say〜」は「and that〜」にも係りますが、この訳文では「〜と言う、そして、〜」となって、後半に係らなくなっています。とにかく分割してしまいましょう。

 
【原文】
Mexican officials say
【訳文】
メキシコの当局は言う
 
【原文】
the number of people contracting the virus has leveled off,
【訳文】
ウイルス感染者数は横ばいになった、
 
【原文】
and that
【訳文】
そして、それ
 
【原文】
schools and other public places will reopen next week.
【訳文】
学校と他の公共の場所は、来週再開する。
 
このようにばらばらにした訳文のパーツをうまくつなぎ合わせる作業が後編集です。
 
原文の語順に従って、「メキシコ当局によれば、ウイルス感染者数が横ばいになり、学校と他の公共の場所は、来週再開するという。」としてみたらいかがでしょうか。
 

<例文その3>

 
【原文】
Although the virus continues to spread across the United States, the extent of the outbreak remains limited and most flu sufferers report relatively mild symptoms.
【訳文】
ウイルスがアメリカ合衆国中に広がり続けるが、発生の範囲は制限されるままである、そして、大部分の風邪患者は比較的軽い徴候を報告する。
 
辞書登録をします。ここでも名詞句が中心ですが、「remains limited」を丸ごと動詞で登録してみました。自動詞の場合はほとんど副作用がありません。

  • extent of the outbreak(n):発生の範囲
  • remain limited(v,9999,remained limited,remained limited,remains limited,remaining limited):依然として限定的である (R)
  • most flu sufferers(n):インフルエンザ患者のほとんど
  • relatively mild symptoms(n):比較的軽い症状

 
構文は問題ないようです。
辞書を反映させて再翻訳しましょう。

 
【訳文】
ウイルスがアメリカ合衆国中に広がり続けるが、発生の範囲は依然として限定的である、そして、インフルエンザ患者のほとんどは比較的軽い症状を報告する。
 

トレーニングのコツ

 
今回は、辞書登録の練習が中心となります。辞書を登録するというより、訳文の一部を作成するという気持ちで作業することが大切です。また、できるだけキーボードから入力しないようにしましょう。
 
例えば、例文その2の場合であれば、

  1. 「number of people contracting the virus」に対する訳文「ウイルスを契約している人々の数」を範囲選択して、Ctrl+C でクリップボードにコピーします。
  2. 次に、「number of people contracting the virus」を範囲選択してからツールバーの「辞書登録」ボタンをクリックします。
  3. すると、見出し語が入力された状態で「辞書登録」画面が開きますので、訳語欄を1回クリックしてマウスカーソル置き、Ctrl+Vでクリップボードにある訳文を貼り付けます。
  4. 「を契約している人々の」を「感染者」に変更し、「ウイルス感染者数」とします。
  5. 品詞を「名詞」にします。
  6. 複数形の欄の文字列を削除します。
  7. 「登録」ボタンをクリックします。

 
このように、出力文を最大限に活用します。キーボードからの入力を減らすためです。
さらに、たとえ出力文が適切であってもユーザー辞書に登録します。というのも、翻訳者自身が正しい訳語であると判断を示さなくては「翻訳」にならないからです。ユーザー辞書に登録することで「判断」を明示することができます。この作業をすることで、初めて訳文が翻訳者自身のものとなるのです。
 
繰り返しになりますが、徹底的にユーザー辞書の登録を行って再翻訳し、構文の調整をした上で訳文に手を入れます。トレーニングではそれほど完璧に仕上げなくても結構です。それよりも、一連の手順がスムーズにできるようになるのが大切です。
 
毎日20分程度で結構です。気分転換のつもりでトレーニングを楽しんでください。
ただし、面白すぎてやめられなくなっても責任はとりませんので悪しからず。 
 
【eTrans Technology】


記事の内容は筆者自身のノウハウに基づいております。記事の内容によって万一損害を被ることがあっても一切責任を負いません。また、この記事の内容に関して発売元の株式会社クロスランゲージへの問い合わせはご遠慮ください。(小室誠一) 

最終更新時間:2009年05月08日 10時34分41秒